ritouです。
kokukumaさんがパスキーのリカバリーについて考察されていました。
サービスがパスキーを利用 -> フィッシング耐性を必要とする前提において
- 複数の認証方式を利用可能にしておいてフォールバック
- ユーザー自身でできるリカバリー
- CS問い合わせ
を用意する際にどう考えたらいいかが整理されています。
フォールバック、リカバリーの基本的な概念について自分が書いた記事を読んで貰えば、少し理解が進むと思います。
今回は、このように検討されて提供されるフォールバック/リカバリーの仕組みが適切なのかどうかの判断においてもう一つ重要となる、これが必要となった際のユーザーの状態を考えてみます。
当然ながら、これはパスキーに限った話ではありません。
考慮すべきユーザーの状態
ユーザーの状態を考えるにあたり「あるサービスをユーザーがどの環境で利用しているか」を意識しましょう。当然ながら、サービスの提供スタイルによって
- (1つ|複数)のPCから利用
- (1つ|複数)のモバイル端末から利用
- (1つ|複数)のPCと(1つ|複数)のモバイル端末で利用
といった状況が考えられます。
例えばモバイルアプリのみで提供されるmixi2であれば(1つ|複数)のモバイル端末で利用、 LINEのようにモバイルアプリケーションは1つに制限されているが(複数の)PCからも利用可能といった違いがあります。メルカリはどうでしたっけ?
当然、そのようなサービスを利用するユーザーの利用スタイルも
- (1つ|複数)のPCを利用
- (1つ|複数)のモバイル端末を利用
- (1つ|複数)のPCと(1つ|複数)のモバイル端末を利用
と様々になるわけです。
ここから、一番クリティカルな状況と考えられる「モバイル端末が(全て)利用できなくなった」状態ではどうなるのかに注目します。
「モバイル端末が(全て)利用できなくなった」らどうなるのか
いわゆる所持情報を利用する認証方法やリカバリー方法のうち、モバイル端末に依存するものがいくつかあり、今後も増えることが考えられます。 スマートフォンを紛失、盗難、故障などで手元で利用できなくなった場合、その時点で利用できなくなるものがあります。
- SMS OTP
- キャリアメールを用いたEmail OTP/Link
- 回線認証
- モバイル端末に保存されたリカバリーコード
- モバイル端末にインストールされたアプリによるポチ
- 今後出てくるDigital Identity Wallet関係も?
これらの内訳となると、一時的に使えないものと恒久的に使えないものがあります。
- 一時的なもの
- キャリアのアカウントやプラットフォーム、3rd Party Password Managerのアカウントに関連するもの
- ログイン済み/設定済みのモバイル端末を利用するもの
- 恒久的なもの
- 個々の端末にしかデータがないもの
前者は新しい端末にアカウントを設定することで復活することができますが、どれぐらいの期間で元通りになるかは個別に事情が変わるでしょう。 キャリアのアカウントの認証自体が理想的とは言えない状況ではショップに身分証を持ち込む方が早いかもしれません。 プラットフォームアカウントについても、同一プラットフォームの別端末の有無などによって違いが出ることがあります。 3rd partyのパスワードマネージャーなどでは認証に既存のデバイスを利用するものもあります。それが失った場合はリカバリーに時間がかかることはあり得ます。
後者はパスキー以前のFIDOクレデンシャルの話と同じです。 Digital Identity Walletに保存されたVCの扱いはこの辺りどうなるのでしょうか?動向にも注目ですね。
サービス側としては、自身が提供するサービスにおいてモバイル端末が利用できない状況において
- 他の認証方法もまとめて使えなくならないか
- リカバリー方法も使えなくならないか
- 復旧に時間がかかる場合も「C2Cの購入が完了しているので発送手続きを進めなければならない」といった状況を問い合わせ対応などで回避できるか
といったところを確認しておく必要があるでしょう。
PC端末が利用できなくなる場合
単純に「連絡先へのコンタクト」に関する機能が異なるため、モバイル端末に比べるとPC端末が利用できなくなり困ることが少ないかもしれません。
モバイル端末をつかってPC向けのサービスにログインする設計のほうが逆よりも多いので、対称ではありません。
依存対象の分離
この文脈で注目したいのは、最初に取り上げたkokukumaさんの記事で「デジタル認証アプリを使ったリカバリ」です。 マイナンバーカードを利用する仕組みは、モバイル端末への依存が少なく、わりと多くのユーザーが取得していることが期待でき、セルフリカバリーとして利用可能です。
UX面ではモバイル端末で完結するものよりも複雑になってしまうものの、このような依存対象の異なる仕組みは有用です。
まとめ
今回はユーザー側の観点に立ち、モバイル端末が利用できなくなる場合にどうなるかに注目しました。
モバイル端末に依存する仕組みが増えると、それが利用できなくなったときにいくら認証方式を多重化しリカバリー方法を用意してもまとめて利用できない状況に陥る可能性があります。
設計、実装した段階では大丈夫だろうと思っていても、問い合わせで気づくこともありますね。モバイル端末に情報が集約する流れを否定するわけではないですが、その前提の上でトラブルに強いサービスを提供したいですね。
ではまた!